会社でハラスメントに遭ったとき、最初にやること。

仕事がつらいと感じているあなたへ 仕事がつらい

「また今日もか」

朝、会社に向かう電車の中でそう思った日が、何度あっただろう。

ハラスメントというと、怒鳴られたり、殴られたりという場面を思い浮かべる人が多いと思う。でも実際のハラスメントは、もっと陰湿で、もっとわかりにくい形で行われることの方が多い。

私が経験した2つの話をさせてほしい。

考えるカエル

考えるカエル

私は実際にハラスメントを受け、労働基準監督署に相談し、全てのやりとりを録音した。その経験から、この記事を書いている。

私が経験した、現実のハラスメント

社長から業務中に飲酒を強要された話

10人もいない小さな会社に所属していたときの話だ。

ある日、業務中に社長から呼ばれた。「今日の営業トーク、なんか面白くないんだよな」という理由で、お酒を飲むよう促された。

断れる空気ではなかった。社長と部下10人未満の会社で、「飲まない」と言うことがどれほど難しいか。権力の差は、時として物理的な圧力と同じ重さを持つ。

これはアルコールハラスメント(アルハラ)に該当する行為だ。業務上の理由もなく飲酒を強要することは、アルハラのなかでも特に悪質な類型に当たる。

社内チャットで晒された話

次は100名近い中堅企業でのことだ。

ある日、別部署の人間から、社内のほぼ全員が入ったグループチャットに投稿があった。私宛に、幼児向け教材の画像を添付して「日本語がわかりませんか?」という内容のメッセージだった。

さらにその後、「特別な事情があるようなので配慮します」という、健常者の私に向けた露骨な皮肉の投稿もあった。

全員が見ている場所で、侮辱された。しかもチャットログという形で証拠が残っていた。

これはパワーハラスメントおよびモラルハラスメントに明確に該当する行為だ。公開の場での名誉毀損的な言動は、ハラスメントの中でも証拠が残りやすく、法的に問いやすい類型でもある。

考えるカエル

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ハラスメントは、暴言や暴力だけじゃない。言葉一つ、態度一つで、人は十分に傷つく。そしてそれは立派な違法行為だ。

ハラスメントの種類を正確に知っておこう

ハラスメントには法律で明確に定義されているものと、そうでないものがある。全体像を把握しておくと、自分が何をされているのかを正確に認識できる。それが対処の第一歩になる。

法律で定義されている主なハラスメント

パワーハラスメント(パワハラ)

厚生労働省の定義では、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、この3つをすべて満たすものをいう。2022年4月からすべての企業に防止措置が義務付けられた。上司から部下だけでなく、同僚間や部下から上司へのハラスメントも成立する。

6つの類型がある。身体的な攻撃(暴行・傷害)、精神的な攻撃(脅迫・暴言・侮辱)、人間関係からの切り離し(無視・孤立化)、過大な要求(不可能な業務を押しつける)、過小な要求(能力・経験とかけ離れた仕事しか与えない)、個の侵害(プライベートに過度に踏み込む)だ。

セクシャルハラスメント(セクハラ)

職場における性的な言動による嫌がらせ。身体への接触、性的な発言、性的な関係の強要など。男性から女性だけでなく、逆のケースや同性間でも成立する。「対価型」(拒否すると不利益を受ける)と「環境型」(性的言動で就業環境が不快になる)の2種類がある。

マタニティハラスメント(マタハラ)・パタニティハラスメント(パタハラ)

妊娠・出産した女性や、育児休業を取得しようとする男性への嫌がらせ。育児介護休業法により企業に防止措置が義務付けられている。

法律の明確な定義はないが広く認知されているハラスメント

モラルハラスメント(モラハラ)

言葉や態度で相手の心を傷つける精神的な嫌がらせ。無視、嫌味、人格の否定など。パワハラと違い、上下関係のない同僚間でも成立する。加害者に自覚がないケースが多く、周囲にも気づかれにくいのが特徴だ。

アルコールハラスメント(アルハラ)

飲酒の強要、一気飲みの強要、飲めない相手へのからかいなど。業務中の飲酒強要は特に悪質で、法的リスクが高い。

リモートハラスメント(リモハラ)

テレワーク環境で発生する嫌がらせ。カメラで部屋の様子を細かくチェックする、特定の社員をWeb会議に参加させないなど。リモートワークの普及に伴い増加している。

重要なのは、ハラスメントは直接的な暴力や暴言だけではないということだ。グループチャットへの投稿、無視、露骨な嫌味、業務の妨害など、「周囲にはわかりにくい形」で行われることの方が実際には多い。

考えるカエル

考えるカエル

「これってハラスメントなのかな」と感じた時点で、すでにあなたは傷ついている。その感覚を信じていい。

ハラスメントを受けたら、まずこれをやる

感情的に動かず、正しい順番で対処することが解決への近道になる。

ステップ1|今すぐ記録を残す

ハラスメントの解決において、証拠は命綱だ。加害者は必ず「そんなことは言っていない」「誤解だ」と言う。証拠がなければ水掛け論になり、「ハラスメントはなかった」として処理されることもある。

残すべき記録はこれだ。

録音
自分が参加している会話を録音することは原則として違法ではない。民事裁判においても証拠として認められることが多く、ハラスメント立証において最も有力な証拠の一つとされる。ボイスレコーダーまたはスマートフォンで録音しておく。

ただし注意点がある。ハラスメント防止委員会など非公開の審議の場での録音は、例外的に証拠能力が否定されたケースもある。判断に迷う場合は弁護士に確認する。

私の場合、人事との全てのやりとりをポータブルレコーダーでこっそり録音していた。

チャット・メールのスクリーンショット
社内チャットやメールのやりとりは特に強力な証拠になる。日時・送信者が確認できる状態でスクリーンショットを撮り、クラウドや個人端末に保存する。削除される前にすぐ対応すること。

日時・内容の日記・メモ
いつ、どこで、誰から、何をされたかを詳細に記録する。客観的な証明力は低いが、継続性を示す補助証拠になる。あとから作成したと疑われないよう、日付と内容の整合性には注意が必要だ。

診断書・カルテへの記録
心療内科などを受診している場合、医師にハラスメントを受けた状況を詳しく話しておく。カルテに記録されることで、精神的被害の証拠になる。うつ病や適応障害が発症した場合は特に重要だ。

ステップ2|社内の相談窓口に相談する

2022年4月から、すべての企業にハラスメント相談窓口の設置が義務付けられた。まず人事に「ハラスメントの相談窓口はどこですか」と確認する。

私は労働基準監督署に相談に行ったとき、「まずは社内の相談窓口に話すのが一番いい」と言われた。社内での解決が最もスムーズで、相談した事実自体が記録として残る。

注意点がある。加害者が相談窓口の担当者と近い関係にある場合や、会社がハラスメントを隠蔽しようとする体質がある場合、社内での解決は難しいことがある。解決に向けた動きが見えない場合は、次のステップへ進む。

また、相談したことを理由に不利益な扱いをされることはパワハラ防止法で禁止されている。

ステップ3|外部の相談窓口へ

総合労働相談コーナー(都道府県労働局・労働基準監督署)
全国に設置されており、無料で相談できる。匿名での相談も可能。指導・助言・あっせんによる解決サポートを受けられる。ただし、匿名の場合は具体的な調査への対応は難しい。

労働組合(ユニオン)
会社に組合がない場合でも、合同労組(ユニオン)に個人で加盟し、会社との交渉サポートを受けることができる。

弁護士
慰謝料請求や法的措置を検討する場合は、弁護士への相談が必要になる。初回相談が無料の事務所が多い。電話一本かけるだけで、自分の状況が法的にどう評価されるかを知ることができる。

ステップ4|最初から行き過ぎた対応をしない

状況を正確に把握しないまま、最初からSNSで拡散したり、感情的に訴えたりすることは逆効果になる場合がある。

記録を残す→社内で解決を試みる→外部機関へ→法的措置を検討する。この順番が重要だ。

考えるカエル

考えるカエル

私は全てのやりとりを録音し、社内の窓口に相談した。記録があったことで、事実を正確に主張できた。証拠は、声なき声の代わりになる。

実際の裁判例でわかること ── こんな状況でこの金額だった

「裁判は大変だし、お金にもならないから」と泣き寝入りする人が多い。でも実際の判例を見ると、自分が受けたことが法的にどのくらいの話なのか、具体的にイメージできる。

判例1|暴言・始末書の強要・嫌がらせ → 慰謝料10〜60万円(被害程度による)

消費者金融に勤める上司が、部下3人に対してパワハラを繰り返した事案だ。

上司の行為は次の通りだ。本来不要な時期に扇風機を長時間あて続ける嫌がらせ、「給料をもらいながら仕事をしていませんでした」などと人格を否定する始末書の強要(Aに対して)、背中を殴打し足で蹴るなどの暴行(Cに対して)。Aは抑うつ状態になり休業した。

裁判所はこの行為がパワハラに当たると認定し、被害の深刻さに応じて慰謝料を決定した。精神疾患を発症し休業したAには60万円(治療費・休業補償も別途)、暴行を受けたCには10万円。同じ上司から同じ職場でハラスメントを受けていても、精神疾患の発症があるかどうかで慰謝料に6倍の差が生じた。

ポイント:精神疾患の発症が証明できると、慰謝料は大きく上がる。

判例2|公開の場での侮辱・名誉毀損的な投稿 → 慰謝料80万円

複数の従業員が見ているチャットや公共の場で、特定の従業員の名誉を傷つける投稿が繰り返された事案だ。

裁判所は「職場における自由な人間関係を形成する自由を侵害するとともにその名誉を棄損するものであり、プライバシーの侵害にも当たる」と判断し、慰謝料80万円、弁護士費用10万円の支払いを命じた。

ポイント:公開の場での名誉毀損は認められやすく、チャットログなどのデジタル証拠は特に強い。

判例3|同僚からの優越的立場を利用した嫌がらせ → 慰謝料200万円

IT関連企業で、直属の部下でないにもかかわらず、社内で一目置かれる立場を利用して別の社員に不当な指示・命令を繰り返した事案だ。

加害者の行為は、業務上必要のない深夜の電話、会社と無関係の仕事の命令、役員や社員の前での暴言・叱責、原告を中傷するメールの送信など。

裁判所は、直属の上司でなくても業務上の地位が高く指示に従わざるを得ない状況にあれば「優越的地位」に当たると判断し、慰謝料200万円を命じた。

ポイント:上司でなくてもパワハラは成立する。言動だけでも継続性・悪質性・公開性が高ければ200万円が認められた。

判例4|退職を強要するための組織的・陰湿な嫌がらせ → 慰謝料200万円

ある会社で、従業員を自主退職させるために、執拗な隔離・監視・嫌がらせが繰り返された事案だ。

裁判所はその行為について「極めて陰湿・不当」と判断し、200万円の慰謝料を認定した。

ポイント:目立った暴力がなくても、組織的・継続的に精神的苦痛を与えた場合は高額になりうる。

判例5|長期間の暴行・暴言・私的な命令により自殺に追い込まれた → 慰謝料2,600万円

これは極端なケースだが、知っておいてほしい。

ある会社で、服にライターの火を近づける、深夜に調理をさせる、休日に呼び出す、暴言・暴行を日常的に繰り返した結果、被害者が自殺した事案だ。

裁判所はパワハラと自殺の因果関係を認定し、慰謝料として2,600万円を命じた。

ポイント:ハラスメントが原因で精神疾患や死亡に至った場合、慰謝料は桁が変わる。行為の悪質性と継続性、そして結果の重大さが金額を決める。

慰謝料の金額を決める5つの要素

これらの判例を整理すると、慰謝料の金額は主にこの5つで決まることがわかる。

①行為の悪質性(暴行か言動か、公開の場かどうか)
②継続期間(単発か長期間にわたるか)
③被害の結果(精神疾患の発症・休業・自殺に至ったか)
④証拠の質(録音・チャットログ・診断書など)
⑤会社の対応(放置・隠蔽していたか)

これらが重なるほど、金額は上がる傾向がある。

考えるカエル

考えるカエル

泣き寝入りは、相手を増長させるだけだ。戦い方を知らない人が多すぎる。知識があなたを守る武器になる。

日本と海外の裁判に対する感覚の違い

日本では「裁判は大げさ」「面倒くさい」という感覚が強い。労力と見合わないという理由で泣き寝入りするケースが多いのが現実だ。

でも海外、特にアメリカやヨーロッパでは、ハラスメントに対して法的手段を取ることはごく一般的な対応だ。自分の権利を守るための手段として、弁護士への相談や裁判が文化として根付いている。

日本でも、2020年にパワハラ防止法が施行されて以来、ハラスメントへの法的対応は以前より格段にしやすくなっている。

可能であれば、まず弁護士の無料相談(多くの事務所で初回30〜60分無料)に持ち込んでほしい。自分の状況が法的にどう評価されるか、証拠として何が使えるか、費用対効果はどうかを専門家の目線で教えてもらえる。相談すること自体は無料だ。

まとめ|あなたは一人で戦わなくていい

ハラスメントは、あなたのせいじゃない。

職場の権力関係や雰囲気を利用した、加害者側の問題だ。

今日からできることを一つ整理する。

まず、記録を始めてほしい。

メモでも、スクリーンショットでも、録音でも。それだけでいい。記録があれば、次のステップに進める。社内相談も、外部機関への相談も、弁護士への相談も、すべて証拠があってこそ力を持つ。

判例が示している通り、あなたが受けたことには、法的に正当に評価される価値がある。泣き寝入りしなくていい選択肢が、確実にある。

一人で抱え込まないでほしい。

今すぐ誰かに話を聞いてほしい場合は、相談窓口も見てみてください。一人で抱え込まなくていい。


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