今日は、少し個人的な話から始めたいと思う。
私の好きなことは何か、と聞かれたら、今は迷わず答えられる。音楽。妻と過ごす時間。散歩と温泉。ラーメンとコーヒー。最近は健康にも意識が向いていて、ジムに通い始め、医者にも定期的に足を運ぶようになった。
でも、これが最初からわかっていたわけじゃない。
仕事に追われていた時期、「好きなこと」なんて考える余裕がなかった。休みの日も疲れ果てて、ベッドの上でスマホをぼーっと眺めるだけで一日が終わる。「何か楽しいことをしなければ」という焦りだけがあって、でも何もしたくない。そういう時期が、確かにあった。
やりたいことは、日々変わっていく。昔は音楽に全力を注いでいた。今は健康に興味が向いている。来年は何が好きになっているか、正直わからない。
それでいいと思っている。
この記事では、「好きなことがわからない」という状態からどうやって抜け出すか、そして好きなことが見つかると人生がどう変わるかを、自分の経験と調べた情報を交えながら書いていく。
「好きなことがない」は、おかしくない
「好きなことは何ですか?」
この質問に詰まる人は、思っているより多い。
就活の面接でこれを聞かれて困った人も、いるんじゃないだろうか。プロフィールの趣味欄を前にして、何も思い浮かばなかった人も。「好きなことで生きていく」という言葉をSNSで目にするたびに、自分には何もないと感じて落ち込んだ人も。
でも正直に言う。好きなことがわからない状態は、怠けでも、感受性が低いわけでもない。
仕事に追われ、疲れ果てていると、人は「好き」を感じる余裕を失う。心理学の言葉で言えば、「内的動機」が薄れた状態だ。ワクワクする・知りたい・やってみたいという感覚が、じわじわと消えていく。
毎日ぎりぎりで生きている人に「好きなことを見つけよう」と言うのは、溺れている人に「泳ぎ方を学ぼう」と言うようなものだ。まず息継ぎができるかどうかの話だ。
だから、今「好きなことがない」と感じているなら、それはあなたがそういうフェーズにいるというだけのことだ。問題でも、欠陥でもない。
むしろ、こう捉えてほしい。
好きなことがない今は、これから好きなことを探せる、ということだ。
好きなことを探す前に、知っておいてほしいこと
本題に入る前に、いくつか前提を整理しておきたい。
まず、「好きなことを仕事にしなければいけない」という呪縛を手放してほしい。好きなことは、仕事でなくてもいい。趣味でいい。週末の楽しみでいい。夜、少しだけ気分が上がることでいい。
「好きなこと=一生続けること」でもない。私の「好き」は年々変わってきた。それは不安定なことじゃなくて、生きていることの証拠だと思っている。
好きなことはなにも、立派なものじゃなくていい。コーヒーを飲むのが好き。ラーメンを食べるのが好き。散歩するのが好き。それで十分だ。「そんなの好きと言っていいのか」と自分を疑う必要はない。
そしてもう一つ。今すぐ「好き」が見つからなくても、焦らなくていい。好きなことは、探しているうちに育つものだ。最初から「これが私の好きです!」という確信を持って始まることのほうが、実は少ない。
好きなこと・やりたいことが見つからない理由
なぜ好きなことがわからなくなるのか。原因を整理しておく。自分がどのパターンかを知っておくと、対策も立てやすい。
疲れ果てていて、感じる余力がない
仕事で消耗しきっている状態では、何かを「好き」と感じるアンテナ自体が機能しなくなる。精神科医も指摘していることだが、燃え尽き症候群に近い状態では、無理に「好き」を探そうとすると逆効果になることすらある。
うつ症状がある場合、「意欲の減退」「興味の喪失」は症状の一つだ。そういう状態のときは、やりたいことを探すより先に、まず体と心を休めることが優先される。
「こんなこと好きと言っていいのか」と打ち消している
何かが気になっても、「でもたいしたことじゃないし」「続かないかもしれないし」「お金にならないし」と、自分でブレーキをかけてしまう人がいる。
好きの芽が出るたびに自分で踏み潰しているようなものだ。この状態では、いつまでたっても好きなことは見つからない。「気になる」という感覚を、まずそのまま受け取る練習が必要だ。
自分で決める習慣がなかった
親や先生、会社や上司の言う通りにしてきた人は、自分で考えて選ぶという経験が少なくなる。「好きなことは何か」と聞かれても、答えを外に探してしまう。
でも、好きなことは自分の内側にしかない。誰かが「これが好きだ」と教えてくれることはない。自分の感覚に戻るための時間と練習が、少し必要だ。
やることに追われて、考える余白がない
忙しい人は、好きなことを考える時間が物理的にない。朝起きて仕事して、帰ってきたら食事して風呂に入って寝る。その繰り返しの中に「自分のための余白」がない。
意識的に余白を作らないかぎり、いつまでも「好き」に気づけない。好きなことを探すには、探す時間と空間が必要だ。
「好き」を大げさに考えすぎている
「好きなことを見つけなければ」という気持ちが強くなりすぎると、「ちょっと気になる」という小さな感覚を無視してしまう。好きなことは、人生を変えるような大発見でなくていい。日常のふとした瞬間の「これ、いいな」という感覚の積み重ねが、やがて「好き」になっていく。
好きなことが見つかると、人生はこう変わる
ここで少し、先の話をしたい。
好きなことが見つかると、具体的に何が変わるのか。「なんとなくいい気分になる」だけじゃない。日常の質感が、根本から変わっていく。
朝の景色が変わる
仕事に追われているだけの毎日は、「また今日も始まった」という感覚で始まる。でも、好きなことがあると朝が少し変わる。
週末にコーヒーを丁寧に淹れるのを楽しみにしている。帰ったら音楽を聴く時間がある。散歩に行く予定がある。小さくていい。「今日の楽しみ」が一つあるだけで、その日の重さが変わる。
私自身、散歩を好きになってから、知らない路地を見つけたときの小さな喜びが、日常の中に確かに存在するようになった。以前は同じ景色がただの「通り道」だったのに、今は探索する場所に見える。
自分を肯定しやすくなる
好きなことがある人は、自己肯定感が安定しやすい。仕事でうまくいかない日があっても、「でも自分にはこれがある」という足場ができる。
仕事だけが自分の評価軸になっていると、仕事がうまくいかない日に自分全体を否定したくなる。好きなことは、仕事以外の評価軸を作ってくれる。「仕事はうまくいかなかったけど、今日の散歩は気持ちよかった」それだけで、一日の感触がまるで変わる。
消耗のスピードが落ちる
好きなことがある人は、回復が早い。疲れた日でも、好きなことをする時間が少しあると、翌日の体が違う。
これは感覚の話だけじゃない。好きなことに取り組んでいるとき、脳はドーパミンを分泌する。このドーパミンが、ストレスの緩衝材になる。義務だけの毎日に比べて、消耗のスピードが落ちる。
人との話が増える
好きなことがある人は、話せることが増える。ラーメンが好きなら、おすすめの店の話ができる。音楽が好きなら、最近聴いているアーティストの話ができる。
共通の好きを持つ人と出会いやすくなる。人間関係は「何が好きか」によって広がっていく側面がある。ハーバード大学の80年以上の追跡研究が示したとおり、人生の幸福を左右する最大の要因は「良い人間関係」だ。好きなことは、その入り口になる。
「先のこと」を考えられるようになる
余裕のない毎日は、今日のことしか考えられない。でも好きなことがある人は、「次の休みにあれをやろう」「来年はあそこに行こう」という小さな未来を持てる。
未来のことを考えられるようになる、というのは、精神的な余裕の証拠でもある。好きなことは、未来を想像するための燃料だ。
仕事への向き合い方が変わることもある
好きなことを見つけた結果、仕事への見方が変わる人もいる。
「好きなことのためにお金を稼ぐ」という視点が生まれると、同じ仕事が少し違って見えることがある。仕事がすべてじゃなくなる。仕事は「好きなことをするための手段の一つ」になる。
もちろん、仕事そのものが好きなことになる人もいる。どちらでもいい。好きなことが見つかることで、仕事との距離感を自分で決められるようになる。それだけで、気持ちが楽になる。
今が人生で一番若い日。始めるのに遅いなんてない。
ここで少し、別の角度から話したい。
「もう遅い」という感覚を持っている人がいる。もう30代だから。もう40代だから。今さら好きなことを探しても、遅すぎる、と。
でも本当にそうか。実例を見てほしい。
森浜子さんは50代からゲームを始め、91歳でYouTuberとして「最高齢のゲーム動画投稿者」としてギネス世界記録に認定された。フォロワーには世界中のファンがいる。
西本喜美子さんは72歳で写真を習い始め、「自撮りおばあちゃん」として92歳になった今も国内外で話題を集め続けている。
柴崎春通さんは70代でYouTubeを開設した。水彩画の技術を動画で配信し始めたところ、CNNに取り上げられ、チャンネル登録者数が100万人を突破した。
彼女たちは「遅すぎる」と思っていただろうか。おそらく、そんなことよりも「やりたいからやった」のだと思う。
今日は、あなたの人生の中で一番若い日だ。
10年後に振り返ったとき、「あの時始めればよかった」と思うか、「あの時始めてよかった」と思うか。それを決めるのは今日の自分だ。
具体的な「好きなことの見つけ方」6つ
では、実際にどうやって好きなことを見つければいいか。理屈ではなく、今日から使える方法を紹介する。
① 「気になる」レベルから始める
「好き」を最初から探そうとしなくていい。「なんか気になる」「ちょっと面白そう」そのくらいの感覚から始めれば十分だ。
私が音楽を始めたのも、最初は「面白そう」という軽い気持ちだった。「自分に才能があるかどうか」なんて考えずに、ただやってみた。それがいつの間にか、自分でイベントを立ち上げるまでになっていた。
「好き」は育てるものだ。最初から「これが好きです!」という確信は、なかなか来ない。「気になる」を拾うことが最初の一歩だ。
② 昔、無意識にやっていたことを思い出す
子どもの頃、何に時間を忘れて熱中していたか。誰に言われたわけでもなく、ずっとやっていたことは何か。
それが、自分の「好き」の原型である可能性が高い。評価されるかどうかではなく、自分が気づいたら続けていたこと。そこに手がかりがある。
大人になって「仕事に使えないから」「お金にならないから」と諦めてしまった好きが、実はまだ心の中に残っていることがある。過去の自分に聞いてみてほしい。何が好きだったか、を。
③ SNSのリアクション履歴を見返す
XやInstagramで、自分がいいねやリツイートした投稿を見返してみる。何が好きかは案外、SNSの行動に正直に出ている。
「なんとなく」で反応したものの中に、自分の本音が隠れていることがある。料理の投稿ばかりに反応しているなら料理への関心があるかもしれない。自然の写真ばかりに反応しているなら、外に出たい気持ちがあるかもしれない。
④ 「もしお金と時間が無限にあったら」を想像する
制約を一度外して考えてみる。仕事しなくていい、お金もある、時間も無限にある。そういう状態だったら、何をするか。
旅に出るか。音楽を作るか。料理を極めるか。誰かに教えるか。本を書くか。
この問いに正直に答えた内容が、自分の「本当に好きなこと」に近い。「でも現実には無理だから」という打ち消しをしないで、まず思い浮かんだものをそのまま受け取ってみる。
⑤ 日常の「気分が上がる瞬間」をメモする
大げさな「好き」でなくていい。コーヒーの香りを嗅いだとき。窓から空を見たとき。散歩で知らない路地を見つけたとき。好きな音楽がかかったとき。
そういう瞬間をスマホのメモに記録していくと、1週間後・1ヶ月後に「自分はこういうことが好きなんだ」という傾向が見えてくる。日常の中に、すでにヒントは散らばっている。
⑥ 本屋に行って、足が止まるコーナーを確認する
本屋に行って、特に目的を決めずに歩いてみる。自然と足が止まったコーナーが、今の自分の興味を映している。
料理コーナーで止まるなら、料理に何か感じているかもしれない。心理学コーナーで止まるなら、人の心に興味があるのかもしれない。旅コーナーで止まるなら、どこかへ行きたい気持ちがあるのかもしれない。
スマホの画面ではなく、本屋という「実空間」に身を置くことで、自分の感覚が戻ってくることがある。
好きなことを探すときの注意点
やり方と同じくらい大事な「やってはいけないこと」がある。これを知らずに進むと、せっかくの芽を自分で潰してしまう。
周りの人に意見を聞かない
「好きなことを見つけたい」と誰かに話すと、たいてい「それは儲からない」「続かないよ」「向いてないんじゃない?」という言葉が返ってくることがある。
好きなことに経済合理性を求めてくる言葉は、いったん無視していい。好きなことは、まず「自分がどう感じるか」だけで判断する。まわりが「いい」と言うものが自分の好きとは限らないし、まわりが「それはどうか」と言うものを好きであることも、十分にある。
「続けられるかどうか」を最初に考えない
「どうせ続かないかもしれないし」と始める前から諦めるのは、もったいない。続くかどうかは、やってみないとわからない。まず一回やってみる。それだけでいい。
続かなかったとしても、「自分にはこれは合わなかった」という情報が手に入る。それもまた、自分を知ることだ。失敗じゃない。
「すごい好き」じゃなきゃいけないと思わない
「これが本当に好きと言えるのか」と疑い始めると、何も始められなくなる。「ちょっとやってみたい」「なんか気になる」それで十分だ。熱狂は、やりながら生まれるものだ。最初から情熱を持っている必要はない。
仕事にしなきゃいけないと思わない
好きなことは、仕事にしなくていい。趣味のままでいい。むしろ仕事にしようとしたとたん、好きなことが義務に変わることもある。
まずは「ただ楽しいから続ける」という状態を大切にする。それが土台にあって初めて、仕事にするかどうかを考える段階が来る。
他人の「好き」を羨ましがるだけで終わらない
「あの人は好きなことがあっていいな」と思う気持ちはわかる。でも、羨ましがるだけでは自分の「好き」は育たない。
他人の好きを見て「いいな」と感じたなら、それはあなたにもその方向への関心がある証拠かもしれない。羨ましさをヒントに変えてみる。「なんでいいなと思ったんだろう」を少し掘り下げてみる。
好きなことは「見つける」より「気づく」もの
精神科医がよく患者に伝える言葉として、「やりたいことを”見つける”よりも、”気づく”ことから始めましょう」というものがある。
「見つける」という言葉には、どこか遠くにあるものを探しに行くようなイメージがある。でも実際には、好きなことの芽はすでに日常の中にある。コーヒーを飲んで「おいしい」と感じた瞬間。雨の音を聞いて少し落ち着いた瞬間。誰かの話を聞いて「面白い」と思った瞬間。
その「気づき」をそのまま受け取ることが、好きなことを育てる最初のステップだ。
自分を知るための一つの方法として、「自分の取扱説明書」を作ってみるのも面白い。自分の好きなこと・得意なこと・苦手なこと・エネルギーが湧く状況を整理してみると、意外と「好き」の輪郭が見えてくる。
「好き」が変わっても、いい
最後に、一つだけ伝えておきたいことがある。
好きなことは、変わっていい。
20代に熱中していたものに、30代では興味が持てなくなることがある。逆に、以前は全く興味がなかったものに、急に惹かれるようになることもある。
私も、音楽への熱量と、健康への関心と、散歩という習慣が、年齢や状況とともに少しずつ変化してきた。どれも「本物の好き」だった。どれかが終わったとしても、それは失ったのではなく、次の好きへの余地が生まれたということだ。
人間の興味は、固定されていない。それは弱さじゃない。生きているから変わる。変わるから、また新しいものと出会える。
好きなことが変わることを、恐れなくていい。
まとめ|好きなことは、探し始めた日から育つ
好きなことがない人は、好きなことを感じる余裕がなかっただけかもしれない。
今まで仕事に疲れて、人間関係に消耗して、「自分のための時間」なんてほとんどなかった人も多いだろう。それは、あなたの感受性が低いからじゃない。そういう環境に置かれていたからだ。
好きなことが見つかると、朝が変わる。自分への見方が変わる。消耗のスピードが落ちる。人との話が増える。未来のことを考えられるようになる。仕事との距離感も変わってくる。
大きな変化じゃなくていい。でも、確実に日常の質感が変わっていく。
今日から少しだけ、自分に許可を出してほしい。
「好きなことを探していい」という許可を。「気になるくらいの感覚でいい」という許可を。「続かなくてもいい」という許可を。
森浜子さんが50代でゲームを始めたとき、まさか91歳でギネス記録を持つYouTuberになるなんて、思ってもみなかっただろう。柴崎春通さんが70代でYouTubeを始めたとき、100万人が見てくれるとは思っていなかっただろう。
好きなことは、探し始めた日から育つ。
今が、その日だ。
この記事を書いた人のnoteはこちら


コメント