ADHDの記事を書いたとき、私は自分を「不注意で、忘れ物が多くて、衝動的な人間だ」と整理した。でも、ずっと引っかかっていたことがある。
私は衝動的なくせに、予定が急に変わるとパニックになる。新しいことが大好きなのに、いつもの店のいつもの席じゃないと落ち着かない。刺激を求めて人混みに行くのに、その騒がしさで30分後にはぐったりする。
「行動的なのか、慎重なのか、どっちなんだ」と、自分でもわからなかった。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるみたいに、自分の中でいつも何かがせめぎ合っていた。
その答えが、最近やっと見えてきた。ADHDとASD、両方の特性を持っている——そういう状態だったのだ。最近これを「AuDHD(オーディーエイチディー)」と呼ぶ人が増えている。
この記事は、「ADHDっぽいけど、ASDっぽいところもある」「片方の説明だけだと、なんかしっくりこない」と感じている人に向けて書く。診断を急がせたいわけじゃない。ただ、自分の中の矛盾に名前があると知るだけで、少し楽になることがあるからだ。
考えるカエル
私はメンタルクリニックで、ADHDの尺度(CAARS)も、ASDの指数(AQ)も、どちらも高めに出た。「どっちなんですか」と聞いたら、先生は「どっちもですよ」と言った。その一言で、長年のちぐはぐが腑に落ちた。
AuDHDって、何? ── まず基本を整理する
AuDHDは「ASDとADHDが同時にある」状態
AuDHD(Autism + ADHD)は、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の両方の特性をあわせ持つ状態を指す言葉だ。
ひとつ大事な前提を言っておく。AuDHDは、今のところ正式な診断名ではない。学術用語としては確立していく途中の言葉で、実際の医療現場では「ASDの診断」と「ADHDの診断」がそれぞれついて、結果的に両方ある、という形になる。当事者の間で「自分の状態を一言で表せる言葉」として広まったのがAuDHDだ。だから、ここでは「正式病名」ではなく「自分を理解するための見取り図」として読んでほしい。
昔は「両方」とは診断できなかった
意外に思うかもしれないが、少し前まで、ASDとADHDを同時に診断することは公式には認められていなかった。「ASDと診断されたら、ADHDの診断はつけない」という除外ルールがあったのだ。そのせいで、ASDと診断された人が不注意や多動で困っていても、ADHDとしての対処にたどり着けないことがあった。
これが変わったのが2013年。アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)が改訂され、両方を併記して診断できるようになった。それ以降の研究で、「実は両方持っている人が、かなり多い」ということが次々とわかってきた。
どのくらいの人が「両方」なのか
数字は研究によって幅があるが、目安としてはこのくらいだ。
- ASDのある人のうち、ADHDも併せ持つ割合は40〜70%とする報告が多い
- ADHDのある人のうち、ASDも併せ持つ割合は20〜50%程度
- 成人838人を対象にした調査では、両方の併存が26.8%
つまり、ASDかADHDのどちらかに当てはまる人にとって、「もう片方も持っている」のは決して珍しいことではない。むしろ、かなりありふれたことだ。発達障害そのものの基本については、厚生労働省のみんなのメンタルヘルス(発達障害)も参考になる。
考えるカエル
「自分はADHD(またはASD)だ」と思っていた人が、後から「実はもう片方もあった」と気づくケースは本当に多い。片方の地図だけだと、説明できない自分がいつまでも残ってしまうからだ。
AuDHDは「足し算」ではないらしい
ここが興味深いところで、東京大学の研究グループは2023年、ASDとADHDが併存している状態は単純な「ASD+ADHD」の足し算ではない可能性を報告している。併存している人にみられるADHDのような症状は、ADHD単独の人とは違う脳のメカニズムから来ている可能性がある、という内容だ。
専門的な話なので深入りはしないが、ここから言えることは一つ。AuDHDは「ふたつの特性が別々に置かれている」のではなく、「混ざり合ってできた、ひとつの状態」として理解したほうがいいということだ。だから、ADHDの対処法とASDの対処法をそのまま足しても、うまくいかないことがある。これは後半で詳しく書く。
ADHDとASDが「同時にある」と、どうなるか
ここがこの記事の核心だ。AuDHDの一番の特徴は、ADHDとASDの特性が、しばしば正反対の方向に引っ張り合うことにある。片方だけならシンプルなのに、両方あると、自分の中で矛盾が起きる。具体的にはこういうことだ。
| ADHDの自分 | ASDの自分 | 結果として起きること |
|---|---|---|
| 新しいこと・刺激が大好き | いつも通り・変化が苦手 | 変化を求めるのに、いざ変わると消耗する |
| 退屈に耐えられない | 予定外のことに弱い | 刺激がほしいのに、予想外は怖い |
| 音や光の刺激を求める | 音や光に過敏 | にぎやかな場所に行きたいのに、行くとぐったりする |
| 興味が次々に移る | 特定のことに過集中 | 好きなことには没頭、それ以外は手につかない |
| 衝動的にすぐ動く | 段取り・見通しを大事にする | 勢いで動いた後、計画が崩れて固まる |
「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」——AuDHDの状態は、よくこう表現される。外から見ると「気分屋」「ムラがある」「言ってることが矛盾している」と思われやすい。でも本人の中では、両方の特性が同時に働いて、ただ引っ張り合っているだけなのだ。
考えるカエル
「やりたいのに、できない」「行きたいのに、しんどい」。この“ねじれ”の感覚が、AuDHDの一番つらいところかもしれない。怠けでも、わがままでもない。脳の中で、ふたつの力がせめぎ合っているだけだ。
私の場合、こんな形で現れていた
AuDHDの出方は人によって本当に違う。あくまで一例として、私の場合はこういう形だった。
刺激がほしいのに、刺激でぐったりする
新しいカフェ、初めての街、にぎやかな飲み会。行く前はワクワクする。でも、その場にいると、音や人の多さでどんどん消耗していく。帰る頃にはヘトヘトで、翌日は動けない。「楽しみにしてたのに、なんでこんなに疲れるんだ」と、ずっと不思議だった。刺激を求める部分(ADHD)と、刺激に弱い部分(ASD)が、同じ場面で同時に働いていたのだ。
予定変更に弱いのに、自分では予定を守れない
「急に変更されると頭が真っ白になる」のに、自分自身は時間にルーズで遅刻も多い。人には計画通りを求めるのに、自分は計画通りに動けない。この矛盾で、何度も自己嫌悪に陥った。
興味のムラが激しすぎる
好きなことには何時間でも没頭できる(ASD的な過集中)。でも、その興味自体がコロコロ変わる(ADHD的な移り気)。だから「ひとつのことを深く、長く続ける」のが、すごく難しかった。
「コミュニケーションが下手」の中身が複雑
空気が読めない(ASD的)だけでなく、話の途中で自分が何を話していたか見失う(ADHD的)。だから「悪気はないのに会話が続かない」「聞いていないと思われる」ということが、よく起きた。原因がひとつじゃないから、対処もひと筋縄ではいかなかった。
知っておいてほしい「自閉的バーンアウト」のこと
AuDHDの人に、特に知っておいてほしいことがある。それが「自閉的バーンアウト(燃え尽き)」だ。
これは、普通の疲れや一般的な燃え尽きとは少し違うと言われている。一度ガス欠になると、回復に数か月〜それ以上、とても長い時間がかかることがあるのが特徴だ。「ちょっと寝れば戻る」ではなく、「ある日、急に何もできなくなる」感覚に近い。
原因のひとつは「マスキング」
大きな原因のひとつがマスキング(擬態)だ。空気を読む、表情を合わせる、雑談に合わせる——多くの人が自然にやっていることが、ASD・AuDHDの人にとっては高度な「演技」になる。これを毎日続けると、ストレスホルモン(コルチゾール)が出っぱなしになり、脳がじわじわ消耗していく。
厄介なのは、マスキングが上手な人ほど「ちゃんとできてる人」に見えてしまうこと。周りからは優秀に見えるのに、本人のエネルギー残量はいつもゼロ。そして限界が来たとき、はじめて崩れる。だから「あんなに普通にやれてたのに、急に動けなくなった」と驚かれてしまう。
こんなサインが出ることがある
- 朝、どうしても起き上がれない
- 言葉が出にくくなる・人と話すのが急にしんどくなる
- これまで平気だった音・光・においが、急につらくなる
- 「休まなきゃ」と思うのに、休むことに強い罪悪感がある
特に最後の「休むことへの罪悪感」が曲者だ。罪悪感を抱えたまま休むと、心が休まらず、かえって回復が遠のく悪循環に入りやすい。休むことは、サボりではなく「メンテナンス」だ。そう自分に言い聞かせていい。
考えるカエル
「普通にやれてたのに、なんで急に」と自分を責めてきた。でも、やれていたんじゃなくて、見えないところで全力で演技していただけだった。それに気づいてから、休むことへの罪悪感が少し軽くなった。
AuDHDと、どう付き合っていくか ── 今日からできること
ここからは、診断のあるなしに関わらず試せる、付き合い方の工夫を書く。ポイントは一つ。AuDHDは「ADHDの対処」と「ASDの対処」のどちらか一方だけでは、うまくいきにくいということだ。
たとえば、ADHD向けに「どんどん切り替えて動こう」という工夫だけをすると、ASDの「変化が苦手・感覚が過敏」という部分が無視されて、かえって不安と消耗が増えてしまう。だから、両方を同時に見ながら整える必要がある。
① 矛盾は「設計」で解く ── 構造化された刺激
「刺激がほしい(ADHD)」と「見通しがほしい(ASD)」は、一見矛盾している。でも、あらかじめ予定の中に“変化”を組み込んでおくと、両方を満たせることがある。
たとえば「水曜の午後は新しいことを試す時間」と決めておく。すると、新しい刺激(ADHDの満足)を、決まった枠組み(ASDの安心)の中で味わえる。突発的な変化は苦手でも、「予定された変化」なら受け止めやすい。これが“構造化された刺激”という考え方だ。
② 感覚環境を、自分仕様に整える
感覚過敏は「我慢」ではどうにもならない。脳の処理の問題だからだ。だから、環境のほうを調整する。
- イヤホン・耳栓で音をコントロールする
- 照明を少し落とす・まぶしさを減らす
- 一人になれる静かな場所を、あらかじめ確保しておく
「これくらい我慢しろ」ではなく「これは調整していいものだ」と自分に許可を出すこと。それだけで日中の消耗がぐっと減ることがある。
③ マスキングの“総量”を減らす
マスキングをゼロにはできない。でも、減らすことはできる。「全部の場面で演技する」のではなく、「ここでは素でいい」という安全な場所や相手を、少しずつ増やしていく。一日の中で、演技しなくていい時間が30分でもあると、消耗の回復速度が変わってくる。
④ エネルギーを“家計簿”のように見る
AuDHDの人は、エネルギーの減り方が人と違う。だから「気合い」ではなく「残量」で予定を組むといい。やることを全部こなそうとせず、「今日の自分の電池はどのくらいか」を先に見積もる。予定を詰め込みすぎないこと自体が、立派な対処だ。
考えるカエル
苦手を克服しようと頑張っていた頃が、一番しんどかった。「克服」より「設計」。自分の特性に合わせて環境とスケジュールを組み替えるほうが、ずっと現実的だと気づいた。
AuDHDの「強み」の話をしよう
矛盾だらけに聞こえるかもしれないが、AuDHDには独特の強みもある。ADHDの「発想の広さ・行動力」と、ASDの「深い集中・正確さ」が、うまく噛み合う瞬間があるのだ。
アイデアを次々生み出しながら(ADHD)、そのひとつを深く掘り下げる(ASD)。これがハマる環境では、他の人にはない仕事ができることがある。
- 興味の幅が広い(ADHD)うえに、ハマったテーマは深く極める(ASD)
- 行動が早い(ADHD)が、ルールや正確さも大事にできる(ASD)
- 発想がユニーク(ADHD)で、独自の視点を持っている(ASD)
問題は特性そのものではなく、特性と環境のミスマッチだ。自分の「アクセルとブレーキ」がどう働くかを知ることが、合う環境を選ぶ第一歩になる。「苦手を直す」より「強みが活きる場所に移動する」という発想が、AuDHDとの付き合いには役立つことが多い。
見逃されやすく、つらさが積み重なりやすい
AuDHDで知っておいてほしいことがもう一つある。つらさが二重に積み重なりやすいということだ。
ASDのある人は、不安障害・うつ病・睡眠障害を併せ持つ割合が一般より高いことがわかっている。AuDHDの場合、そこにADHDの困りごとも重なるため、こうした二次的なしんどさが、さらに積み上がりやすい。
しかも、AuDHDは見逃されやすい。片方の特性がもう片方を覆い隠してしまい、「ADHDだけ」「ASDだけ」と判断されて、もう片方が見過ごされることがある。特に大人、そして女性は、子どもの頃から上手にマスキングしてきた結果、診断が遅れやすいと言われている。その分、長く自分を責め続けてしまいがちだ。
「ずっと生きづらかったのに、原因がわからなかった」——その背景に、まだ気づかれていないAuDHDの特性が隠れていることがある。
セルフチェックをやってみる
受診の前に、自分の状態を整理するためのセルフチェックがある。AuDHDが気になる場合は、ADHD用とASD用、両方やってみるのがいい。どちらか片方だけだと、もう片方の特性が見えないからだ。いずれも診断ではなく、あくまで傾向を知るための手がかりだ。
ADHD向け:ASRS-v1.1
WHO(世界保健機関)が開発した、成人ADHDの自己記入式チェックリスト(18問)。武田薬品工業の大人の発達障害ナビから無料で受けられる。
ASD向け:AQ/RAADS-14
AQ(自閉症スペクトラム指数)は50問・15分程度。RAADS-14は14問・5分程度の簡易版だ。「AQ-J 自閉症スペクトラム指数」「RAADS-14 大人の発達障害ナビ」で検索すると無料で受けられる。
結果は印刷かスクリーンショットで残して、受診時に医師に見せると、説明がぐっとスムーズになる。
※ これらは診断ではありません。スコアが高くても低くても、それだけで結論は出ません。気になる方は精神科・心療内科を受診してください。
もしかしてと思ったら:受診までの流れ
何科に行けばいい?
精神科または心療内科を受診する。「大人の発達障害外来」があれば、より安心だ。
ひとつ注意点がある。AuDHDは正式な診断名ではないので、「AuDHDを診てください」とは言わない。代わりに「ADHDとASD、両方の特性が気になっている」と伝えるといい。すべてのクリニックが発達障害の診断に対応しているわけではないので、予約前に「大人のADHD・ASDの診断に対応していますか」と電話で確認しておくと安心だ。
初診で何を聞かれるか
現在の困りごとと、子どもの頃からの様子(生育歴)を聞かれる。「子どものころから忘れ物が多かった」「変化が苦手で決まった手順にこだわった」など、両方の特性のエピソードを思い出しておくといい。子どもの頃の通知表や連絡帳があると、参考資料になることがある。
診断には複数回の受診が必要なことが多い。一度で結論が出なくても、それが普通だ。受診をためらう気持ちがある人は、メンタルクリニックに行くのをためらっているあなたへも読んでみてほしい。
考えるカエル
「片方だと思って受診したら、もう片方も見つかった」というのは、よくあること。気になる特性は、遠慮せず全部伝えていい。それが、正確な地図を作る近道になる。
診断がついたら、どうなる?
対処は「両方」を見て組み立てる
くり返しになるが、ここがAuDHDで一番大事なところだ。ADHD的な「時間管理・注意のサポート」に加えて、ASD的な「感覚環境を整える・予定を見通せるようにする」ことの両方を組み合わせていく。前半で書いた「構造化された刺激」や「感覚調整」は、まさにこの両立のための工夫だ。
薬について
ADHDの治療薬(コンサータ、ストラテラなど)は、ASDを併せ持つ人でも不注意などに効果が示唆されている。ただし、ASD併存の場合は反応がやや出にくかったり、副作用が出やすかったりすることも報告されている。少量から慎重に、というのが基本だ。
※ 薬の使用は必ず医師の指示に従ってください。自己判断での服用・中断は危険な場合があります。
環境を、自分に合わせる
合理的配慮を職場に求めたり、障害者手帳・障害者雇用という選択肢を検討したりすることもできる。大切なのは、苦手を克服しようとするより、強みが活きて、矛盾が暴れにくい環境を選ぶこと。働き方や相談先に迷ったときは、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルこころの耳も入口になる。
まとめ|「矛盾した自分」は、おかしくない
行動的なのに、慎重。刺激がほしいのに、刺激で疲れる。やりたいのに、できない。
その矛盾は、あなたの性格がねじれているからでも、わがままだからでもない。ADHDとASD、ふたつの特性が同時に働いて、引っ張り合っているだけかもしれない。そして、それは「混ざり合ったひとつの状態」として理解し、設計しなおすことで、ずいぶん付き合いやすくなることがある。
「ADHDの説明だけだと足りない」「ASDの説明だけだとしっくりこない」と感じてきたなら、まず両方のセルフチェックをやってみてほしい。そして気になるなら、精神科か心療内科で「両方の特性が気になる」と相談してみてほしい。
矛盾を抱えた自分に、ちゃんと名前と地図がある。それを知るだけで、少し楽になれることがある。
考えるカエル
ふたつの特性を持つ自分を、ずっと「面倒な人間だ」と思っていた。でも「混ざり合ったひとつの状態」だと知ってから、自分を責める回数が減った。知ることは、怖くない。知らないままでいるほうが、ずっとしんどい。
→ ADHD・ASDそれぞれについては、こちらの記事でも詳しく書いている。
→ そもそも「なんかしんどい」の正体を探したい人は、こちらから。
つらいときは一人で抱え込まないでください
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つらくて誰かに話を聞いてほしいときは、相談窓口も見てみてください。一人で抱え込まなくていい。



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