求人票を見ていたとき、こういう表記を見たことがある。
「月給27万円以上」
いいじゃないか、と思って内訳を確認した。
基本給:180,000円
固定残業代:75,000円
諸手当:15,000円
合計:270,000円
え、と思った。27万円のうち、7万5,000円が「固定残業代」だ。
つまり、残業することが最初から前提になっている給与体系だった。残業しなければ、実質的な基本給は18万円だ。
私がこの仕組みを正確に理解したのは、転職を繰り返した3社目のことだった。それまでは「どこの会社もそんなものだ」と思っていた。疑問を持つ前に、当たり前として受け入れていた。
この「固定残業代」という仕組みを、就職活動のときに正確に理解している人はどれだけいるだろうか。
この記事では、固定残業代(みなし残業)の仕組みを、当事者の体験も交えながら丁寧に解説する。知っているかどうかで、大きく損をする制度だ。
※本記事は制度の概要をわかりやすく紹介することを目的としています。個別の状況への適用については、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
固定残業代(みなし残業)とは何か
仕組みをシンプルに説明する
固定残業代(みなし残業代)とは、あらかじめ一定時間分の残業代を毎月の給与に含めて支払う制度だ。正式には「固定残業代制」と呼ばれる。
例えば「月給30万円(固定残業代として30時間分含む)」という求人があったとする。これは、30時間分の残業代をあらかじめ給与に組み込んで支払っているという意味だ。
会社側のメリットは、残業代の計算が簡略化されることと、給与の予測がしやすくなること。労働者側のメリットは、実際の残業時間が固定残業時間より短くても、その分の残業代が全額支給される点だ。
ただし、この制度は知らないと確実に損をする。
固定残業代の「警戒ライン」を知っておく
固定残業代が設定されている求人を見たとき、金額の大きさで判断の基準が変わってくる。
固定残業代が月4万円程度であれば、それほど警戒する必要はないと思う。給与計算の簡略化や、月10〜15時間程度の残業を想定した設定であることが多く、一般的な範囲だ。
しかし、5万円以上になってくると話は変わる。
5万円以上ということは、時給換算でおよそ20〜30時間以上の残業を前提にしている計算になる。それだけの残業が毎月発生することを、会社側も最初から想定しているということだ。求人票の月給が高く見えても、固定残業代が大きい分だけ「残業前提の給与設計」になっている可能性が高い。
私が見た求人票の固定残業代は75,000円だった。これは相当な水準だ。入社前に気づいていれば、もう少し冷静に判断できたと思う。
考えるカエル
求人票の「月給27万円以上」に惹かれて内訳を確認した。固定残業代が7万5,000円含まれていて、基本給は18万円だった。3社目でようやく「これはおかしい」と気づいた。それまでは、どこもこんなものだと思っていた。
固定残業代で知っておくべき重要なポイント
ポイント① 固定時間を超えた残業は別途支払われる
固定残業代制は「残業代を全部まとめて払う制度」ではない。
固定残業時間(例:30時間分)を超えて実際に残業した場合、その超過分の残業代は別途支払われなければならない。これは法律で定められている。
例えば「固定残業30時間分含む」という給与で、実際に40時間残業した場合、10時間分の残業代は追加で支払われるべきだ。
これを支払わない場合、労働基準法違反になる。しかし、知らなければ請求できない。
ポイント② 固定残業時間の上限は原則45時間
固定残業時間に明確な法律上の上限はないが、労働基準法で「時間外労働の上限は月45時間・年360時間」と定められているため、事実上この範囲内に収める必要がある。
月45時間を大幅に超える固定残業時間を設定することは、恒常的に上限を超えた残業を想定していることになり、違法と判断されるリスクが高くなる。
求人票に「固定残業50時間」「固定残業80時間」などと書かれている場合は、特に注意が必要だ。
ポイント③ 基本給が極端に低くなっていないか確認する
固定残業代を大きく設定することで、見かけ上の月給を高く見せることができる。でも実態は基本給が低く設定されているケースがある。
基本給が低いと何が困るのか。賞与(ボーナス)・退職金・各種手当の計算基準が基本給になっていることが多いからだ。固定残業代を含んだ月給が高くても、基本給が低ければ、長期的には損をする可能性がある。
また、最低賃金との比較は「固定残業代を除いた基本給」で行う必要がある。固定残業代を含めた給与が最低賃金を上回っていても、基本給だけで計算した時間単価が最低賃金を下回っていれば、違法となる。
ポイント④ 雇用契約書・就業規則に明記されているか確認する
固定残業代制を適法に運用するためには、雇用契約書や就業規則に以下の内容が明記されている必要がある。
- 固定残業代制を実施する旨
- 固定残業時間の具体的な時間数
- 固定残業代の金額
- 固定残業時間を超えた場合の追加支払いについて
これらが明記されていない場合、固定残業代が無効と判断される可能性がある。入社前に雇用契約書を確認することを強くおすすめする。
考えるカエル
「雇用契約書に固定残業の時間数と金額が明記されているか確認してください」なんて、最初の就職活動では誰も教えてくれなかった。知った頃には、もうサインしていた。
36協定とは何か、なぜ関係があるのか
36協定の基本
「36協定(さぶろくきょうてい)」という言葉を聞いたことがある人も多いと思う。
36協定とは、会社が従業員に残業(法定労働時間を超える労働)をさせる場合に、労使間で締結しなければならない協定だ。労働基準法第36条に基づくため「36協定」と呼ばれる。
36協定なしに残業させることは、原則として違法だ。
36協定が定める残業の上限
36協定では、時間外労働の上限を定めている。
- 原則:月45時間・年360時間以内
- 特別条項付きの場合(臨時的・特別な事情がある場合のみ):年720時間以内、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、月45時間超は年6回まで
2024年4月1日からは、これまで猶予されていた建設業・自動車運転業などにもこの上限規制が全面適用された。
固定残業代と36協定の関係
固定残業代制を採用している会社でも、この36協定の上限は適用される。
つまり、「固定残業代として50時間分払っているから、毎月50時間残業させても大丈夫」というのは正しくない。
固定残業時間を月45時間以上に設定すること自体は、特別条項付き36協定を締結すれば可能だが、それが「臨時的な事情がある場合」ではなく恒常的な残業を前提としている場合は、法律の趣旨に反するとされる。
求人票や雇用契約書に「固定残業45時間」「固定残業50時間」などと記載されている場合、その時間数の残業が毎月発生することを前提にしていると考えて間違いない。
考えるカエル
「36協定があるから何時間でも残業できる」という誤解が職場に広まっていることがある。36協定は残業を無制限に許可するものじゃなくて、上限を決めるためのものだ。
固定残業代が違法になるケース
固定残業代制は、適切に運用されれば合法な制度だ。でも、以下のようなケースは違法と判断される可能性がある。
ケース① 固定残業時間を超えた分の残業代が支払われない
最も多いトラブルだ。固定残業時間(例:30時間)を超えて残業しているのに、追加の残業代が支払われないケースだ。
固定残業代は「〇時間分の残業代を前払いする制度」であり、超過分を支払わなくていい制度ではない。
ケース② 固定残業代が給与に含まれていることが明示されていない
採用面接で「月給30万円」とだけ伝えられ、その中に固定残業代が含まれているという説明がなかった場合。あるいは雇用契約書に固定残業代の内訳が明記されていない場合。
このケースでは、固定残業代が無効と判断され、別途残業代全額を請求できる可能性がある。
ケース③ 基本給と固定残業代が明確に区分されていない
「月給30万円(時間外手当含む)」という記載だけで、基本給がいくらで固定残業代がいくらかが不明な場合。
固定残業代制として有効であるためには、基本給と固定残業代が明確に区別されている必要がある。
ケース④ 設定された残業時間が著しく長い
過去の裁判例(マンボー事件・東京地裁2017年)では、法定労働時間を大幅に超えるような固定残業時間の設定が公序良俗違反と判断されたケースもある。
固定残業時間が月45時間を大きく超えるような求人は、慎重に検討した方がいい。
考えるカエル
違法かどうか自分では判断が難しいから、「なんか変だな」と思ったら一人で抱え込まないでほしい。労働基準監督署への相談は、匿名でも無料でもできる。
求人票でチェックすべきポイント
求人票を見るとき、固定残業代についてこの点を確認してほしい。
① 固定残業時間は何時間か
時間数が記載されていない場合は要注意。「固定残業代含む」だけでは、何時間分かが不明だ。必ず時間数を確認する。
② 固定残業代の金額と時間数は妥当か
月4万円程度であれば一般的な範囲だが、5万円を超えてくると毎月相当な残業が前提になっている可能性が高い。金額が大きいほど、残業が常態化している職場と見た方がいい。
③ 基本給はいくらか
月給の総額ではなく、固定残業代を除いた基本給を確認する。基本給が極端に低い場合、賞与や退職金などの計算基準が低くなる可能性がある。
④ 固定残業時間を超えた場合の追加支払いについて記載があるか
「固定残業時間を超えた場合は別途支払う」という記載があるかどうか。これが書かれていない求人票は注意が必要だ。
もし不満があるなら、相談できる場所がある
「固定残業代の超過分が支払われていない」「雇用契約書の記載が不明確だ」と感じたら、一人で抱え込まないでほしい。
労働基準監督署への相談は、無料で匿名でもできる。全国の労働基準監督署で「総合労働相談コーナー」が設置されており、賃金・残業・解雇など労働問題全般の相談を受け付けている。
未払い残業代の請求権は、民法改正により現在3年間は消滅しない(当面の措置)。過去に支払われなかった残業代を請求できる可能性がある。
ただし、状況によって対応が異なるため、専門家(社会保険労務士・弁護士)への相談も選択肢のひとつだ。
※相談先や請求手続きの詳細については、お住まいの地域の労働基準監督署または専門家にご確認ください。
まとめ|知っているだけで、だいぶ違う
固定残業代(みなし残業)は、適切に運用されていれば合法な制度だ。
でも、知らないと損をする。基本給と固定残業代の内訳を確認せずに「月給〇〇万円以上」という数字だけで判断すると、入社後に「思っていたのと違う」という事態になりかねない。
私が気づいたのは3社目だった。それまではどこの会社もこんなものだと思っていた。でも、知っていれば判断が変わった場面は確実にあった。
求人票を見るとき、この記事を思い出してほしい。
- 基本給はいくらか
- 固定残業時間は何時間か
- 固定残業代は4万円以内か、5万円を超えていないか
- 超過分は別途支払われるか
- 雇用契約書に明記されているか
これだけ確認するだけで、だいぶ違う。
あなたの給料は、あなたが守るしかない。
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給料から引かれているお金の仕組みについては、こちらの記事でも詳しく書いている。
→ 給料から引かれているお金、全部説明します。
今、仕事のことで行き詰まっているなら、相談窓口も見てみてください。一人で抱え込まなくていい。



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