仕事を辞めようかと考えるとき、最初に頭をよぎるのはたいてい同じことだ。
「辞めたら、生活できるのか」
それが怖くて動けない人を、私はたくさん見てきた。私自身もそうだった。「辞めたら収入がゼロになる」という恐怖が、限界に近い状態でも踏みとどまらせる。
でも、その恐怖の多くは「知らない」ことから生まれている。
仕事を辞めた後、条件を満たせば一定期間、給付金を受け取ることができる。それが失業保険だ。自分で申請しなければ一円も入ってこないが、知っていれば選択肢が増える。
この記事では、失業保険の仕組みをすべて説明する。「しんどくて辞めた」場合に特に知っておいてほしい制度についても、丁寧に書く。
なお、傷病手当金(休職中に受け取れる給付金)についても別記事で詳しく書いている。「休職→退職」という流れでどちらの制度をどの順番で使うかは、この記事の後半で整理する。→傷病手当金の記事はこちら
失業保険とは何か
正式名称は「雇用保険の基本手当」だ。一般的に「失業保険」「失業手当」と呼ばれているが、法律上は雇用保険制度の一部として位置づけられている。
仕組みはシンプルだ。仕事を辞めた後、再就職するまでの間の生活を支えるために、国が一定期間の給付金を支給する。給付は自動ではなく、ハローワーク(公共職業安定所)で自ら手続きをしなければ受け取れない。
対象は、雇用保険に加入していた人だ。正社員はもちろん、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあったパートやアルバイトも対象になる。雇用保険料は毎月の給与から天引きされている。給与明細の「雇用保険料」という欄がそれだ。毎月払っている保険料の見返りとして、辞めたときに受け取れる。
考えるカエル
「辞めたら失業保険があるけど3ヶ月待たないともらえない」とだけ知っていた。その3ヶ月が怖くて、ずっと動けなかった。でも実態はもう少し複雑で、自分の状況によって全然違う話になる。
受け取るための基本条件
失業保険を受給するには、以下の条件をすべて満たす必要がある。
① 雇用保険の被保険者期間があること
退職の理由によって必要な期間が異なる。
- 自己都合退職(一般的な退職):離職日以前の2年間に、12ヶ月以上の被保険者期間が必要
- 会社都合退職・特定理由離職者(後述):離職日以前の1年間に、6ヶ月以上の被保険者期間で受給できる
② 「失業状態」にあること
失業保険は「働く意志と能力があるが、仕事に就けない状態」の人が対象だ。受給中は定期的にハローワークへ行き、求職活動の実績を申告する必要がある。
重要な点がある。病気やケガで今すぐ働けない状態の人は、失業保険の対象外になる。傷病手当金は「働けない人」、失業保険は「働ける状態で求職中の人」が対象だ。病気療養中は傷病手当金を使い、回復して求職活動ができる状態になってから失業保険に切り替えるのが正しい順番になる。
③ ハローワークで求職申し込みをすること
自動では受け取れない。会社を辞めた後、自分でハローワークに行き、手続きを踏む必要がある。
「自己都合」と「会社都合」。この違いが受け取れる金額と期間を大きく変える
失業保険を理解する上で最も重要な概念がここだ。退職理由が「自己都合」か「会社都合」かによって、給付が始まるタイミング・給付される日数・必要な被保険者期間、そのすべてが変わる。
| 自己都合退職 | 会社都合退職 /特定理由離職者 |
|
|---|---|---|
| 受給までの流れ | 7日(待期)+1ヶ月(給付制限) | 7日(待期)のみ |
| 必要な被保険者期間 | 2年間で12ヶ月以上 | 1年間で6ヶ月以上 |
| 給付日数(加入10年未満) | 90日 | 90〜120日(年齢による) |
| 給付日数の上限 | 最長150日 | 最長330日 |
2025年4月の法改正により、自己都合退職の給付制限期間は従来の2ヶ月から1ヶ月に短縮された(出典:厚生労働省「令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について」)。ただし、5年以内に3回以上自己都合で退職した場合は3ヶ月になる。
自己都合で辞めた場合、ハローワークで手続きをしてから約1ヶ月半後に初めて給付が始まる。会社都合や特定理由離職者なら、手続きから約2週間後に始まる。この差は大きい。
さらに2025年4月の改正では、離職前1年以内または離職後に自ら教育訓練を受けていた場合、給付制限そのものが免除される新制度も導入された。在職中に資格取得やオンライン学習をしていた人は、ハローワークで確認してほしい。
受給が始まるまでのタイムラインを退職理由別に整理する
「いつお金が入ってくるのか」が実際には一番気になるはずだ。退職理由ごとに整理する。
パターンA:会社都合・特定理由離職者
退職 → ハローワークで手続き → 7日間の待期期間 → 初回説明会 → 第1回認定日(手続きから約2〜3週間後)→ 認定日から5営業日で振込
最速で退職後約3〜4週間で初回の振込がある。体調不良・ハラスメント・雇い止めなどが理由の「特定理由離職者」もこのパターンになる(後述)。
パターンB:自己都合(一般)
退職 → ハローワークで手続き → 7日間の待期期間 → 初回認定日(求職活動1回必要)→ 1ヶ月の給付制限期間 → 第2回認定日(求職活動2回以上必要)→ 認定日から5営業日で振込
初回の振込は退職後約2ヶ月が目安になる。
給付制限中の過ごし方:求職活動実績とは何か
給付を受けるには、認定期間ごとに「求職活動実績」が必要だ。4週間ごとの認定日に、前回認定日から今回までの間に原則2回以上の活動実績を申告しなければならない(初回認定日は1回でよい)。
求職活動として認められる主な活動(出典:厚生労働省Q&A):
- 求人への応募(転職サイト・転職エージェント経由も可)
- ハローワークや民間機関での職業相談・職業紹介
- 公的機関等が行う各種講習・セミナーへの参加
- 個別相談ができる企業説明会への参加
単なる求人サイトの閲覧・ハローワークへの登録だけでは実績にならない点に注意が必要だ。転職エージェントに登録して面談するか、ハローワークの窓口で職業相談をすると1回としてカウントされる。体調が優れない時期でも、オンライン面談やセミナー視聴で実績を作ることができる。
考えるカエル
給付制限の1ヶ月間は正直きつかった。でも「何もしてはいけない」わけじゃない。アルバイトも条件次第でできるし、実績作りもオンラインでこなせる。知っているだけで気持ちが違う。
いくらもらえるか。月収別の目安と計算の仕方
失業保険の受給額は一律ではない。退職前の給与をもとに計算される。計算のステップは以下の通りだ。
① 賃金日額 = 離職前6ヶ月の給与合計(賞与・退職金を除く)÷ 180
② 基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(50〜80%)
給付率は賃金日額が低いほど高く(最大80%)、高いほど低くなる(最低50%)設計だ。生活保障として機能するよう、低収入の人が有利になるように設定されている。基本手当日額には上限と下限があり毎年8月に改定される。2025年8月改定後の上限は30歳未満で日額7,255円(出典:厚生労働省「令和7年8月1日からの基本手当日額等の適用について」)。
月収別の受給額目安
| 退職前の月収(額面) | 基本手当日額(目安) | 月額換算(30日) |
|---|---|---|
| 15万円 | 約3,700円 | 約11万円 |
| 20万円 | 約4,600円 | 約13.9万円 |
| 25万円 | 約5,000円 | 約15万円 |
| 30万円 | 約5,800円 | 約17.3万円 |
※上記は厚生労働省の公表資料をもとにした概算。実際の金額は年齢・賃金日額の区分によって異なる。正確な額はハローワークで確認してほしい。
自己都合・加入5年・月収25万円の人が90日間受給した場合の総額目安は約45万円。「ゼロ」と「45万円」の差は、判断の幅を大きく変える。
「しんどくて辞めた」人が知っておくべき、特定理由離職者という制度
ここが、この記事で最も伝えたい話だ。
「自分から辞めたんだから、自己都合退職だ」と思っている人が多い。しかし法律上は、自ら辞めた場合でも、やむを得ない理由があると認められれば「特定理由離職者」として扱われる。そして特定理由離職者には、給付制限期間(1ヶ月の待機)が適用されない。
特定理由離職者として認定される主な理由は以下の通りだ(出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」)。
- 体力の不足・心身の障害・疾病・負傷などにより離職した
- 妊娠・出産・育児等により離職し、受給期間延長措置を受けた
- 家族の死亡・疾病・負傷等のため扶養を余儀なくされた
- 配偶者との別居生活が困難になったため離職した
- 通勤が不可能または困難になったため離職した
上のリストの最初の項目を見てほしい。「体力の不足・心身の障害・疾病・負傷」——これには、うつ病・適応障害・パニック障害なども含まれ得る。職場でのストレスが原因で体や心を壊し、それ以上続けられなくなって退職した場合、特定理由離職者として認定される可能性がある。
特定理由離職者と認定されると何が変わるか
- 給付制限期間(1ヶ月)が免除 → 7日間の待期のみで受給開始
- 必要な被保険者期間が「1年間で6ヶ月以上」に緩和
- 国民健康保険料の軽減措置(前年給与所得を30%に換算して計算)が受けられる場合がある
認定を受けるには何が必要か
病気・体調不良が理由の場合、ハローワーク所定の診断書様式を提出することが求められる場合が多い。かかりつけの医師に「傷病等による離職」に関する診断書を書いてもらうことが、認定への近道になる。
重要なのは、離職票に記載された退職理由が「一身上の都合」となっていても、ハローワークで実態を説明し、別の判断を求めることができる点だ。最終的な認定はハローワークが個別に審査する。「どうせ無理」と諦める前に、まずハローワークに相談してほしい。
「会社都合」との違い
特定理由離職者は給付制限が免除されるが、給付日数は基本的に自己都合退職と同じ90〜150日だ。一方、ハラスメントや過重労働など明確な証拠がある場合は「特定受給資格者(会社都合扱い)」として認定されることもあり、その場合は給付日数が最長330日まで延びる可能性がある。証拠(記録・診断書・上司とのやり取りのメモなど)が手元にあればハローワークに相談してほしい。
考えるカエル
「自分から辞めたんだから仕方ない」と思っていた。でも「しんどくて辞めた」ならそれは正当な理由だ。知らないまま損をしている人が多すぎる。
手続きの流れ。退職してからやること
STEP 1|離職票を受け取る
退職後、会社から「離職票」が郵送されてくる。通常は退職後10日〜2週間程度かかる。離職票は失業保険の手続きに必須の書類だ。2週間以上経っても届かない場合は会社の担当者に問い合わせる。それでも発行されない場合は、ハローワークに相談すれば対応してもらえる。
STEP 2|ハローワークで求職申し込みをする
住所地を管轄するハローワークに以下の書類を持参して、求職の申し込みと失業給付の受給資格申請を行う。
- 雇用保険被保険者離職票(1・2の2枚)
- マイナンバーカードまたは通知カード+本人確認書類
- 写真(正面・上半身・縦3cm×横2.5cm)2枚
- 預金通帳またはキャッシュカード
- 印鑑
特定理由離職者として申請する場合は、診断書など離職理由を証明する書類を持参する。事前にハローワークに何が必要か確認しておくとスムーズだ。
STEP 3|雇用保険受給者初回説明会に出席する
手続きから数日後、ハローワークが指定する「雇用保険受給者初回説明会」に参加する。ここで雇用保険受給資格者証と失業認定申告書が渡される。この説明会への参加が求職活動実績の1回にカウントされる。
STEP 4|7日間の待期期間(全員対象)
求職申し込みから7日間は、退職理由を問わず全員対象の待期期間だ。この間は給付されない。また、待期期間中にアルバイトをすると待期期間が延長される。この7日間は完全に何もしない期間と考えておくこと。
STEP 5|失業認定日にハローワークへ行く
原則として4週間に1度、ハローワークの指定する「失業認定日」に出向き、失業認定申告書を提出する。求職活動の実績を申告し、認定を受けた分の給付金が約5営業日後に振り込まれる。
受給中のアルバイト。4時間ラインと週20時間ラインを覚えておく
失業保険の受給中でも、ルールを守ればアルバイトはできる。ただし境界線を超えると「先送り」「減額」「打ち切り」の3パターンに分かれる。
ライン①:週20時間以上 → 受給資格が消える
週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合、雇用保険の加入義務が発生し「就職した」と判断される。この時点で失業保険の受給資格は消滅する。複数のアルバイトを掛け持ちしている場合は、すべての時間を合算して20時間未満に抑える必要がある。
ライン②:1日4時間以上 → その日の給付が「先送り」(総額は変わらない)
週20時間未満の範囲で、1日4時間以上働いた日は「就労日」として扱われる。その日の失業保険は支給されないが、なくなるわけではなく、給付期間の末尾に繰り越される。受け取れる総額は変わらない。
たとえば90日分の給付がある人が10日間アルバイトした場合、その10日分は先送りになり、給付期間が10日延びる。
ライン③:1日4時間未満 → 「内職扱い」で収入に応じた減額
1日4時間未満の労働は「内職・手伝い」として扱われる。先送りにはならないが、収入額によって失業保険が減額される場合がある。
減額の判断基準はこうだ。
(基本手当日額 + その日のアルバイト収入)が賃金日額の80%を超えた分だけ失業保険が減額される
少額の収入であれば減額されないケースも多い。不安な場合は事前にハローワークで自分の賃金日額を確認し、計算しておくと安心だ。
絶対にやってはいけないこと:無申告
アルバイトをした事実は、4週間ごとの失業認定申告書で必ず申告しなければならない。申告しないことが不正受給になる。金額が少なくても、1日だけでも、申告義務は同じだ。
不正受給が発覚した場合の結果はこうなる。
- 受給した金額の全額返還
- さらにその2倍のペナルティ(合計3倍)の納付命令
- 以降の受給資格の取り消し
- 悪質な場合は詐欺罪として刑事訴追の可能性
「バレなかった人がいる」という話は、単にまだ発覚していないだけか、時間差でペナルティが来ているケースがほとんどだ。マイナンバーの整備で所得情報の照合は年々厳格になっている。正しく申告して使うことが唯一の正解だ。
早めに就職すると得をする。再就職手当という制度
失業保険を受け取りながら、早く再就職を決めると「再就職手当」が受け取れる。「ハローワークの就職お祝い金」と呼ばれることもある制度だ。
計算式はこうだ。
再就職手当 = 基本手当日額 × 支給残日数 × 給付率(60%または70%)
給付率は就職が早いほど高くなる。
- 所定給付日数の3分の2以上残して就職 → 70%
- 所定給付日数の3分の1以上残して就職 → 60%
具体例:月収25万円・30歳・自己都合・加入5年の場合
基本手当日額:約5,000円 所定給付日数:90日
給付制限終了直後(残日数90日)に就職した場合:
5,000円 × 90日 × 70% = 約31万5,000円が一括で支給される
失業保険を満額(45万円)受け取るより少ないが、一括で支給されるうえに新しい仕事の給与も同時に入ってくる。「早く就職すると損をする」という誤解は間違いで、この制度があるため早期就職のメリットは大きい。
受給するための主な条件:
- 7日間の待期期間満了後に就職していること
- 就職日前日時点で、支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
- 1年を超えて勤務することが確実であること
- 前職と資本・人事・取引等で密接な関係にない事業主への就職であること
- 過去3年以内に再就職手当を受給していないこと
申請期限は就職日の翌日から1ヶ月以内だ。期限を過ぎると受け取れなくなるので、就職が決まったら速やかにハローワークへ届け出ること。
傷病手当金との連携。「休職→退職」の流れで制度を繋ぐ
大前提:失業保険と傷病手当金は同時に受け取れない。
失業保険は「働ける状態にある人」が対象で、傷病手当金は「働けない状態にある人」が対象だ。状態が矛盾するため、同時受給はできない。
では、「休職→退職」の流れではどうなるか。正しい順番はこうだ。
- 休職中は傷病手当金を受給する(在職中・退職後も条件を満たせば継続)
- 体調が回復し「働ける状態」になった時点でハローワークへ行き、失業保険の手続きをする
- 失業保険を受給しながら求職活動を行い、再就職する
注意が必要なのは、失業保険の受給期間(原則、退職日の翌日から1年間)だ。病気療養中で求職活動ができない状態の場合、この1年間の期限内に受給を開始できない可能性がある。
その場合は「受給期間延長申請」をハローワークに行う。病気・ケガが理由であれば最大3年間(通常の1年+3年=最大4年)延長できる。申請期限は、退職後30日を経過した日の翌日から2ヶ月以内だ。これを忘れると、体調が回復した頃には失業保険が受け取れなくなっている。早めに手続きをしておくことを強くお勧めする。
考えるカエル
受給期間延長申請、私は退職した直後に動けない状態でそのまま忘れていた。気づいたときには手遅れだった。これだけは先に手続きしておいてほしい。
知識を持つことで、恐怖が変わる
「辞めたら生活できない」という恐怖は、本当のことを言えば嘘ではない。傷病手当金にしても失業保険にしても、給付額は元の給与より少ないし、期間にも限りがある。
それでも——知っていることと知らないことでは、判断の幅がまったく違う。
「辞めたらゼロになる」と「辞めた後も一定期間は給付がある」では、同じ限界の状態でも考えられることが変わる。特定理由離職者として給付制限が免除されるとわかっていれば、「もう少し体を休めてから動こう」という選択ができる。早期就職で再就職手当が出ると知っていれば、焦らなくていい理由が一つ増える。
今すぐ動く必要はない。ただ、知っておいてほしい。
知識は、あなたが本当に必要なときに、判断の支えになる。
参考資料:雇用保険のご案内|ハローワークインターネットサービス / Q&A〜労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)〜|厚生労働省 / 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要|ハローワーク / 基本手当日額の変更(令和7年8月1日から)|厚生労働省 / 再就職手当について|厚生労働省・ハローワーク


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