休職という選択肢の話をする。

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限界が近い。でも辞めるのは怖い。

そういうとき、「休職」という選択肢が頭をよぎることがある。でもすぐに「いやそんなの現実的じゃない」「迷惑をかける」「戻れなくなる」という気持ちが追いかけてくる。

この記事は、休職について正直に書く。メリットもデメリットも、実際のしんどさも含めて。そのうえで、それでも休職を選んだほうがいい理由を伝えたい。


まず数字を見てほしい。休職は珍しいことじゃない。

厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調で1ヶ月以上休職した労働者がいた事業所の割合は10.2%に達している。10社に1社では、誰かが心の不調で長期休職している計算だ。

全国健康保険協会のデータでは、傷病手当金の支給件数のうち39.1%が精神疾患を原因としており、20〜35歳未満に限ると50%超が精神疾患だ(令和5年度・協会けんぽ現金給付受給者状況調査報告)。

つまり、今この時点でも、あなたの知らないどこかで、あなたと同じような状況の人が休職という選択をしている。あなたが特別に弱いわけでも、異常なわけでもない。


休職のメリット

①今の状態を悪化させずに済む

仕事を休めば、ストレスの源から物理的に離れられる。毎朝怖くなる通勤がなくなる。怒られることへの恐怖から距離が置ける。体と頭が少しずつ回復できる。

限界まで追い詰められた状態で働き続けることは、適応障害がうつ病に移行するリスクを高める。専門家が繰り返し指摘しているのは、「早期に離脱するほど回復が早い」という事実だ。

②雇用が守られる

退職と違って、休職中は雇用契約が継続している。社会保険(健康保険・厚生年金)も継続される。会社に籍が残っているということは、復職という選択肢が手元にある状態を維持できるということだ。

「辞める」という取り返しのつかない決断を、最も消耗している状態でしなくていい。休んでから、落ち着いて考えればいい。

③復職という選択肢が残る

休職から復職した人は多い。自分に合う部署への異動が実現したケースも、職場環境が改善されていたケースも、ただ時間を置くことで関係が変わったケースもある。辞めてしまうと、その会社に戻る選択肢はほぼなくなる。休職はその選択肢を手放さずに済む。

④次の選択を「まともな状態」でできる

消耗しきった状態で「続けるか辞めるか」を判断することほど危ういことはない。極度に疲弊しているときの判断は、通常の状態とは大きくずれる。休んで、少し回復してから考える。それだけで、判断の質が変わる。


休職のデメリット。正直に書く。

メリットばかりではない。ここは正直に書く。

①給与は原則ゼロになる

休職中は給与が出ないことがほとんどだ(会社の就業規則による)。これが最大の壁になる人は多い。ただし傷病手当金という制度を使えば給与の約3分の2を最長1年6ヶ月受け取ることができる。「給与がゼロになる」という恐怖は、制度を知ることで大幅に和らぐ。詳しくは傷病手当金の記事で解説している。

②社会保険料の自己負担が発生する

休職中も社会保険料(健康保険・厚生年金)は払い続けなければならない。給与から天引きされていたものを、自分で会社に振り込む形になる。毎月数万円の出費になるため、事前に会社の人事に金額と支払い方法を確認しておくことを勧める。

③気が気でない

これは、私自身が休職して感じたことだ。

正直に言う。私は休職中、仕事のことが頭から離れなかった。「今ごろ職場はどうなってるんだろう」「自分の担当していた案件は誰が対応しているんだろう」「迷惑をかけているんじゃないか」そういう考えが繰り返し浮かんできた。休んでいるのに、休んでいる気がしなかった。

臨床の現場でも同様の事例は珍しくない。産業医の報告では「上司から3日に1回体調確認のLINEが届き、それを見るたびに仕事のことを鮮明に思い出してしまい緊張状態が続いていた」という事例が記録されている。精神科医の立場からも「申し訳なさで頭がいっぱい、休んでいる間も気が休まらないという状態ほど回復に時間がかかる」という指摘がある。罪悪感そのものが強いストレスになるからだ。

④面談がある

会社によっては、休職中に人事や産業医との面談が定期的に設定される。「元気になっているか」「復職の見通しはあるか」といった確認だ。これを負担に思う人もいる。頻度については一般的に月1回程度が目安とされているため、負担が大きければ事前に相談して調整することも選択肢だ。

⑤結局、退職につながることもある

これも私の話だ。気が気でなくて、結局休んでいる気がしなくて、私は休職ではなく退職を選んだ。でも「休職してから退職した」ということには意味があった。傷病手当金を受け取りながら、次のことを落ち着いて考える時間を持てたからだ。退職するとしても、いきなり辞めるより休職を経由する方が、無収入期間を短くできる。

考えるカエル

考えるカエル

休職中は仕事のことが頭から離れなかった。スマートフォンから会社のアプリを全部削除したとき、少し楽になった。「仕事を忘れる練習」みたいなものが、最初は必要だった。


休職したときの周囲の反応。リアルを知っておく。

休職を躊躇する理由の一つに「周りの目が怖い」がある。正直に言うと、職場の反応は人によって、会社によって、大きく異なる。良い話も悪い話も、両方ある。

「迷惑をかけた」と感じることはある

休職すれば、担当していた仕事は誰かが引き継ぐ。それが同僚の負担になることは事実だ。「申し訳なかった」という感覚は、復職後に特に強く出ることが多い。ただ、その罪悪感を抱え続けることは回復の妨げになる。医師や専門家が共通して言うのは、「今は治療と回復が自分の仕事」という考え方に切り替えることだ。

復職後に態度が変わるケースはある

体験談を見ると、「復職後に同僚が冷たくなった」「腫れ物扱いをされた」という声は少なくない。ある産業医は「みんなうつ病の人とはどう接したらいいかわからない、というのが実態」と語っている。悪意というより、接し方がわからなくて距離を置いてしまうというケースだ。

これは覚悟しておいた方がいい現実だ。ただ同時に、「変わらずに接してくれる人が必ずいる」という声も多い。職場の全員が冷たくなるわけではない。

上司や会社の対応は二極化する

休職を申し出たとき、「わかった、まず休んでください」と言ってくれる上司もいれば、困惑したり引き止めたりする上司もいる。会社によっても、メンタルヘルスへの理解度は大きく違う。

体調不良を理由とした休職申し出を会社が拒否することは基本的にできない。診断書があれば、会社はそれを受け入れる義務がある。「上司に言いにくい」という場合は、人事部門や社内相談窓口に直接持ち込むことも選択肢だ。外部の相談窓口を使う方法については相談窓口の記事にまとめている。

休職中の連絡は「来ないこと」が理想

毎年数百人の休職者と面談する産業医によると、「休職中の同僚に連絡をしてもいいか」という質問に対する答えは、「本人から連絡があるまでそっとしておいてあげてください」で一貫しているという。善意からの励ましのメッセージでも、それを見るたびに仕事を思い出し、緊張状態が続いてしまう。

連絡が来た場合、返事をする義務はない。「療養に専念しています」という一言でいい。それ以上の対応は不要だ。


それでも休職したほうがいい理由

傷病手当金があれば、無収入にならなくて済む

休職中の最大の不安は「お金」だ。でも条件を満たせば、給与の約3分の2を最長1年6ヶ月受け取れる傷病手当金という制度がある。月収25万円なら月約16〜17万円。ゼロではない。その間に、次のことを落ち着いて考えられる。

傷病手当金の詳しい仕組み、申請方法、退職後でも受け取れる条件については別の記事で詳しく解説している。→知っておいて損はない。仕事を休んでも収入を守る、傷病手当金という制度。

辞めるとしても、休職してからの方がいい

「どうせ退職するなら休職は意味がない」と思う人がいる。でもそれは大きな誤解だ。

自己都合退職の場合、退職してから失業保険が給付されるまで1ヶ月以上かかる。その間は完全に無収入だ。一方、休職してから退職した場合、退職後も傷病手当金を受け取れる条件がある(退職日まで1年以上の健康保険加入など)。退職後も収入を確保しながら、次のステップを考える時間を持てる。「退職か休職か」ではなく、「休職してから退職か、いきなり退職か」という視点で考えると、休職を経由することの意味は明確だ。

今、判断しなくていい

「戻れるかどうかわからない」「退職した方がいいかもしれない」そういう迷いがある状態のとき、最初の一手として休職は有効だ。決断をすぐに迫られなくていい。まず休む。落ち着いてから、考える。


休職するまでの流れ

STEP 1|まず受診する

クリニックを受診して、医師に状態を伝える。「休職したい」と明確に伝えていい。医師が「療養が必要」と判断すれば、診断書を発行してもらえる。診断書の発行費用は自費で3,000〜5,000円程度が一般的だ。

メンタルクリニックへの初受診については別の記事で詳しく書いている。

STEP 2|会社の就業規則を確認する

会社によって休職制度の有無・期間・条件が異なる。休職できる期間(3ヶ月〜数年と幅がある)、休職中の給与の有無、社会保険料の扱いなどを人事担当者に確認しておく。休職制度が法律で義務づけられているわけではないため、制度がない会社も存在する。ただし多くの会社は就業規則に定めている。

STEP 3|上司または人事に伝える

伝える内容はシンプルでいい。

  • 受診したこと
  • 医師から「療養が必要」と言われたこと
  • 休職したいこと

体調が悪くて直接話せない場合は電話やメールでも問題ない。上司に話しにくい場合は、人事部門や相談窓口に直接連絡することも選択肢だ。

STEP 4|診断書を提出して手続きを進める

診断書を会社に提出すると、正式な休職手続きに移る。このタイミングで傷病手当金の申請方法についても人事担当者に確認しておくと後の手続きがスムーズになる。


休職中の過ごし方

休職に入ったとき、多くの人が最初に感じるのは「何もしていない罪悪感」だ。「働いていない自分は価値がないんじゃないか」という感覚。これはメンタル不調のある人に特に強く出やすい。

でもはっきり言う。最初は何もしなくていい。

休職初期は、体と頭が限界に近い状態にある。その状態で「資格の勉強をしよう」「次の仕事を探そう」と動き出すのは、怪我をしているのに走ろうとするのと同じだ。「仕事を休んでいるのだから何か生産的なことをしなければ」という感覚は、不調のある人ほど強く出る。でも産業医は口を揃えて言う。急性期に何かをしようとすること自体が回復を妨げる、と。

会社の業務アプリはスマートフォンから削除することを勧める。通知が来なくなるだけで、思っているより体が楽になる。少し余裕が出てきたら、好きだったことを少しずつ再開する。散歩でも、料理でも、音楽でも。「楽しい」という感覚が戻ってくることが、回復のサインになる。


復職か退職か。焦って決めなくていい。

休職期間中、「いつ戻ればいいか」という問いが頭を占領することがある。でも焦りは禁物だ。

メンタルヘルス不調による休職から復職した労働者の5年以内の再休職率は約47%という研究データがある(厚生労働省関連研究)。つまりほぼ半数が5年以内にまた休職している。回復が不十分なまま戻ることが、再発を招く。うつ病の再発率は60%にのぼるという報告もある(厚生労働省「うつ対応マニュアル」)。

「戻れる状態かどうか」は、自分ではなく医師と相談しながら判断する。「ちょっと良くなった気がする」で早まらない。

そして、もし休職期間中に「この職場には戻れない」という確信が生まれても、それは正直な判断だ。そのときは退職という選択をすればいい。ただ、その場合も傷病手当金の受給条件を維持したまま退職できるよう、手続きの順番を確認してから動いてほしい。

考えるカエル

考えるカエル

私は結局退職したけど、傷病手当金をもらいながら次のことを考える時間を持てた。あの時間がなかったら、もっと焦って変な判断をしていたと思う。休職してから退職するという順番は、正解だった。


限界を超えたまま働き続けることを、誰もあなたに強いる権利はない。

休職は逃げではない。消耗した体と頭を守るための、正当な選択だ。

どこに相談すればいいかわからないとき、あるいは一人で抱えるのが限界のときは、相談窓口をまとめた記事も参考にしてほしい。

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